2017/06/29

1272【東京駅周辺まち歩き独断偏見ガイド4】東京駅を近代日本戦争時代の開幕記念碑とするならばJPタワーは現代世界戦争時代の開幕記念碑かもしれない

東京駅周辺まち歩き独断偏見ガイド3】からのつづき

 次は東京駅から右に頭を回して、駅前広場の南側に建つビルをご覧ください。下半身は白いタイル張り、上半身は黒いガラス張りの超高層ビルです。
 この「JPタワー」は、先ほどの東京駅から容積移転した6件のビルのひとつです。だから容積移転がないなら容積率1300%が上限なのに、これは移ってきた容積を加えて容積率1520%で建っています。容積をくれた東京駅を見下していますね。

 下半身の白ビルに見覚えある方もおいででしょう。そう、1931年にできた東京中央郵便局、あの白ビルがここに建っていたのです。
 それに上半身の黒ビルをつけ加えたってわけですね。つまり、東京駅が上につけ加えるはずだったビルの一部を、ここに持ってきて乗せたってことです。
JPタワーになる前の東京中央郵便局 2007年撮影

 さて、あの上半身の黒いガラス面の折れ具合をよくご覧ください。なにかを連想するでしょ、そう、折り紙ヒコーキですよ、あれは。ね、そう見えるでしょ。
 空から飛行機が降ってきて、超高層ビルにグサッと突き刺さるって、ほれ、何か思い出すでしょ、そう、2001年ニューヨークで起きた9・11テロ事件ですよ。
折り紙ヒコーキJPタワー 左は計画時の絵、右は完成時の写真 
(どちらも日本郵便サイトから引用)

 これって9・11の暗喩なんですよね、いや、パロディデザインかな、そう見えるでしょ、つまり、建築デザインで文明批評をやってるんです、すごいですねえ。
 このデザインはアメリカの建築家ヘルムート・ヤーンだそうです。なんでアメリカでやらないで、遠い日本でやるのでしょうかねえ。
 まあ、アメリカ人は折り紙ヒコーキって何のことか分らないし、わかってもこんなパロディを絶対に受け入れないでしょうから、日本でやったのでしょうか。
天から降ってきて突き刺さる黒い紙ヒコーキ

よく見ると折り紙が張り付いているようなカーテンウォール

 でも、日本でもパロディって分らないらしいけどね、まあ、わたしが勝手にそう思ってるだけなんでしょう。
 東京駅が20世紀の敗戦記念碑としての姿を消したと思ったら、JPタワーが21世紀の戦争記念碑として姿を現すとはねえ、いやまあ、感慨を催しますねえ。
 と、まあ、独断偏見的建築文明批評妄語です。

 思い出せば、あの白い下半身を保存するか、壊して新しくするかって、いっとき論争がありましたよ。東京駅と東京中央郵便局、どちらの騒ぎも国営組織の民営化に伴う開発か保存かって、まったくおなじ構図でしたね。

 時の総務大臣の鳩山邦夫さんが保存せよって直接に口を出して乗りこんできて、世間の話題になりましたね。鳩山さんは切手マニアで、少年時にこの中央郵便局に新発売切手を買いによく来たとかって聞いたことありますが、懐かしい建築なのでしょうね。
 建築保存とは、そのような市民としての建築への愛着が大切な動機になるんですね。一般には郵便局よりも鉄道駅の東京駅の方が、市民的愛着が大きかったでしょう。

 でも東京駅の時と比べて、市民的保存運動の盛り上がりが低調だったのは、東京駅がキンキラ装飾建築であるの比べて、こちらは豆腐に眼鼻の白い箱デザインで、素人受けしなかったからでしょう。建築の専門家では大きな騒ぎでしたが。
 結局は、今見えている表側だけを残し、裏の方を切って壊して超高層を建てたのでした。でも外装タイルは新品に貼り換えたらしく、せっかく現物一部保存したのに、同じものをコピーしたレプリカに見えますねえ。
工事中のJPタワーを東京駅前から見る 2009年撮影
下半身となる中央郵便局者が表側2スパンだけ残して裏側を撤去したことが分る

 ところで、その保存問題が起きたのはなぜでしょうか。キンキラ東京駅と比べると、なんと味もそっけもないこの建築に、専門的にはどんな価値があるというのでしょうか。
 これらは日本の建築デザイン史では、有名な建築なのです。たまたま隣合せになっているのも珍しい貴重な都市景観です。
 19世紀後半から西欧的文化を取り入れて近代日本を築いていく中で、西欧クラシック様式建築のほぼ直輸入時代の最後のあたりが、1914年の東京駅のデザインでした。

 そして1931年にできた白ビルの中央郵便局は、そのクラシック輸入時代が終わって、こんどは西欧モダン様式建築輸入時代となり、その先端を行くものでした。
 東京駅のクラシック、中央郵便局のモダン、どちらも西欧文化輸入の典型だったのですね。そしてどちらの様式建築も日本に残っているのは希少になってしまっていた、そこに保存問題が起きる専門的な由縁があったのです。

 なんにしても、東京駅と東京中央郵便局がならんで、日本近代化時代の西欧文化移入の典型的な景観が、ここに存在することに意義を見出しましょう。
 それと共に、東京駅が近代日本戦争史の記念碑であり、JPタワーが現代世界の戦争史開始の記念碑(?)であり、二つの歴史的建築が作り出す特異な都市景観であることも、忘れないようにしましょう。

 では、次に参りましょう。(つづく

●中央郵便局に関しての詳しいことは下記を参照のこと
東京中央郵便局舎の改築と建築保存の諸問題(2008)」

東京駅周辺まち歩きガイド資料2017年5月版(伊達美徳制作ガイドブック)
東京駅復元反対論集(伊達美徳「まちもり通信」内)
まちもり通信(伊達美徳アーカイブズ)


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