2012/07/27

646横浜港景観事件(10)横浜の景観行政は凄腕だと評判なので本当かと新港地区に現場を見に行く

1●横浜みなとみらい21の新港地区を見に行く
横浜のみなとみらい21地区のなかの新港地区で、アニヴェルセルなる結婚式場の建設計画が出された。横浜市の都市美対策審議会で、そのデザインがよくないと否決された。
だが今日までのところ、なんとなく聞こえてくるのは、横浜市はその否決された計画でGOサインを事業者に出す気配である。
審議会の委員はもちろん怒っているだろうし、周りのキマジメな建築家たちも怒っている声が聞こえる。

でもねえ、その結婚式場を設計するのも、日本の建築家のひとりなんですね。
似たような結婚式場が近くにいくつもあるけど、これまで建築家がそれらにNOといった形跡はないなあ。高島地区や紅葉坂や本町通ではよくて、新港地区ではいけないのは、そこがなにか特別のところなのかしら。
そういうデザインを世の結婚年齢層が好むのがけしからん、というつもりか。
では、あのどこが悪いか、世の若者たちにわかるように、建築家は言ってもらいたい。

これまでの横浜市の景観行政はなかなかに凄腕でよくやってきたのに、こんどの事件は残念という声もある。
ということは、さぞやその腕前がこれまでの新港地区での建築に発揮されていて、それらと比べると今度のアニヴェルセル結婚式場は相当に下手くそなのであろう。
と、新港地区の建築群をしげしげと眺めてきたのである。これから順番に、それらをあげつらっていく。


2●あっけらかんの赤レンガ倉庫
まずは、何と言っても赤レンガ倉庫である。20世紀初めにつくった港の倉庫である。
その昔は何しろ倉庫であるから、飾り立てる必要はないので、汚らしいごたごたしたやっちゃ場風情だったろう。
レンガ造としたのは、貿易の保税倉庫として防火防犯や防湿などの機能で最先端の技術を使ったからであろう。
それがデザインが良いから使ったのではない。 

今ではそれをこうやって磨き立て、まわりに何もなくて見通しが良くし、バックには海と大桟橋や橋が見えるようになり、赤レンガパークなる公園施設として再生すると、赤レンガの色がなかなかの風情である。もしあれがほかの倉庫のようにトタン張りだったら、こうはならなかっただろう。

外のあっけらかんさは、野外イベントがあると、突然に生き生きとした空間となる。図体ばかり大きな赤レンガ倉庫も生きる。
ただ、わたしが嫌いなのは、樹木が一本もなくて、今どきの暑さの季節はとてもいられないことだ。少しは樹木を植えなさいよ、赤レンガと緑の樹木は似合いますよ。

3●草ぼうぼうの地と運河べりの官庁はどうなる
その西隣あたり、つまり馬車道から万国橋をわたって新港3号線道路を来ると、右側は何ともわびしい。まだ売れ残っている土地らしい。茫漠たる風景である。いっそのこと生え放題の草原にすると、子どもが喜びそうである。
ここあたりは何ができるのだろうか。都市計画の土地利用規制を見ると、臨港地区の修景厚生工区という分区指定だから、たいていの都市的な施設を建てることができる。

万国橋をわたって右に、どうってこともないそこら辺にあるような事務所ビルがある。港湾官庁や税関のオフィスらしいが、これはまたなんとも愛想がない建物である。赤レンガ倉庫の引き立て役であろうか。
このブロックには総合庁舎のような計画があるらしい。さて、赤レンガ倉庫に対応してどんな建築ができるのだろうか。玄関口にふさわしいデザインを期待する。

4●汽車道を通したナビオス横浜
万国橋を渡って左には、「ナビオス横浜」なるホテルがある。汽車道から赤レンガ倉庫を見通すラインの建物をぶち抜いて、大きなゲート状のトンネルが特徴的である。
そのゲートの汽車道側の広場は、運河パークの一部に見えるが、じつはこのホテルの敷地らしい。汽車道を敷地の中を通すためにこのような配置にしたらしい。
それにしても思うのだが、こんな無理して(?)建物を貫通させるプロムナードにしたのは、わざとそうしてのだろうか。
もともとの汽車道を、赤レンガ倉庫まで延長して公共の道路、あるいは地区計画の地区施設に指定しなかったのは、なぜだろうか。かつて赤レンガ倉庫のそばまで列車が入っていた歴史を示すにはそうするべきであった。このゲートをくぐると汽車道は消えるのが残念だ。
全体としてはバランスのよいデザインだが、何しろホテルだから外に開かないのが残念である。


5●新港地区を分断した臨港幹線道路
新港地区は一つの島である。ここを東西に貫く広すぎる道路・臨港幹線がある。今の交通量に比較してあまりに広いのは、今後、どこかの幹線道路とつながるのだろうか。
この広すぎる道路は、新港地区の土地利用にかなり致命的な感じがする。島を海側と運河側に分断している。これをわたるのは一苦労である。

だからだろうが、万国橋から来る新港3号線道路と臨港幹線道路との交差点に、巨大な楕円ドーナツ歩道橋がかかっている。
わたしは歩道橋が大嫌いで、基本的にはわたらないで無理しても(時には命がけで)地上を行く主義である。
ここでは道があまりに広くて、しょうがないからドーナツ歩道橋を渡るのだが、これ揺れて揺れて、気持ちが悪い。ここからあたりを眺めていると、あっ、また地震だ、とたびたび思うくらいである。
丸いデザインもいいけど、耐震構造を何とかしてもらいたい。景観以前の問題である。 
道路になんだか広い中央分離帯があって、なかにトンネルのようなもの見える。使っていないのだが、何だろうか。高速道路にでもつながるのか。
その分離帯がまた広いばかりで無駄にしか思えない。どうせなら森にでもしてはどうか。

歩道橋から西を眺める。左のワールドポーターズの向こうに、遊園地「コスモワールド」の巨大な観覧車の輪が顔をのぞかせている。この異様さに目が行って、ワールドポーターズの下手くそデザインに目がいかない仕掛けであるのか。
異様さといえば、その右向こうにはスイカの切り身か出刃包丁のようなホテル・インターコンチが立ち上がっている。
この二つの円弧を描く建築物は、他の建築物とは明らかに異なるイメージをもっていて、この臨港道路のランドマークとしての役割をもっている。
この対の関係は意図した景観計画によるものか、偶然の産物か。意図したとすれば、それなりにうまいと思う。それは沿道の建築があまりにもつまらないことと、大いに関係がある。

6●どうにも邪魔なワールドポーターズ
さてそのドーナツ橋で揺すられながら臨港幹線の景観を鑑賞するのだが、これがどうもねえ。
まことに困るのは、左に見えるワールドポーターズなるショッピングビルである。これこそ港の流通倉庫そのものデザインで、でかい壁に描いた落書きのような絵も変だし、丸見えの駐車場ビルも流通倉庫につきものの風景である。
まあ、考えようでは倉庫の島であった新港地区に、まことにふさわしい景観をつくっているかもしれない。

このワールドポーターズが新港地区という島の真ん中に、でんと大きな図体を構えたので、メインアクセスの汽車道から海への見通しがいかにも悪い。
建物デザインが悪いから特に気になる。新港地区におけるワールドポーターズの唯一良いところは、屋上からの眺めが良いことっである。しかもここに来ればワールドポーターズが見えないから、まことによろしい。もっとも、眺めをゆっくり鑑賞するような快適な屋上ではない。

わたしが想像するに、最初にこのブロック割を考えたときに、この位置にはラウス社が世界各地の港でやったフェスティバルマーケットのような施設を想定していたのだろう。
それならば、運河パークと一体になって、シドニーやボルチモアのような楽しい空間になるはずだ。
現実は閉鎖的な普通のショッピング施設になってしまっている。ここでなければならないようなデザインでも業態でもない。
これだけでかいと大きな吹き抜けのアトリウムがあり、そこから運河側の風景を眺めながらエスカレーターで上るようになっているに違いないと、中に入ってみたが各階にぎっちりと店が詰まっていた。

駐車場出入り口が、運河パーク側の区画道路にあるため、ここの交通量が多くて運河パークとショッピングとがつながらない。こちら側の駐車場出入り口ををなくして、区画道路を歩行者専用にすれば、ずいぶん雰囲気がよくなると思う。
本来ならば臨港幹線側をセットバックして、駐車場出入り専用レーンを作ればよかったろうにと思うが、手遅れである。
運河パークに、ホテルやショッピングの楽しさがにじみ出てこないのが、残念である。

7●ちょっとピンとこないJICA、そして空き地 
さてまた元に戻って、丸い歩道橋の上からの眺めである。
右側の手前にJICAと書いてあるビル、その向こう隣は空き地、その向こうに赤い豆腐のようなビル、さらにその向こうにガラス張りの事務所のようなビルが見える。
JICAは研修所らしい。なんだか凝ったつもりの立面だが、45度のひねりがしっくりとこない。外回りを赤いレンガ色にしておけばよいだろうという程度の建築で、特に論評に値するデザインではない。海側に回ると倉庫かと思うような壁が連なる。

その向こう隣の空き地には、結婚式場が建つらしい。今の話題のアニヴェルセル結婚式場とは別物である。
このあたりは結婚式場だらけになる。そのうちにどれかがつぶれて、葬儀場になるだろう。これからは婚礼需要は減っても、葬儀需要は増えるばかりだから。

8●赤レンガ倉庫建築元祖カップヌードル・ミュージアム
さてその向こうにある赤い箱が問題である。愛想のない真っ四角な豆腐に、レンガ色のタイルを貼り付けている。近づいてみても、なにも看板がない。なんだろう、倉庫か。
入ってみてわかったが、これが日新チキンラーメンの発明者・安藤百福の記念館、題して「カップヌードル・ミュージアム」であるのか。

ずいぶん前に新聞報道でその記念館ができるとあって、これは絶対にカップヌードル型の建物ができるに違いない、横浜市の美観審議会はどう判断するかと興味を持っていた。
もうできていたのであったか。これはまた、なんということか、赤レンガ倉庫建築の元祖のようなデザインであるとは、、、。唖然とするほどの思い切りの良さである。
もしこれが真っ白なら豆腐そのもの、建築史でいえばモダンデザインのハシリの下手なやつ、ということになるだろう。
よく見ると壁に縦に筋が2本入っているのは、多分、あまりに単調な大壁なので、分節したのだろう。もしかしてこれは、デザインガイドラインにある分節デザインとして、都市美審議会の指導によるのか。

単体としてみるこの建築デザインは、わたしとしては好ましいと思っている。しかし街並みとしてみると、どうもねえと思うのである。
このような箱をみて、ごく普通の人はどう思うのだろうか。まさかカップヌードルのミュージアム、つまり食文化のエンタテインメント施設とは思うまい。
あ、安藤百福記念館だから、エンターテインメントじゃないのか。いや。こういうミュージアムこそエンタテインメント性を持ってほしい。

ワールドポーターズからのアプローチは、広い臨港幹線道路を横断歩道で横切るのだが、それと知っていれば渡っても行くだろうが、知らなければ寄ることはないだろう。
とにかく、運河側から海側ブロックへのアクセスが、広い臨港道路にさえぎられてしまっている。せめて、ワールドポーターズの2階から、こちらにデッキをつないではどうか。運河パークからのデッキを貫通させるのである。

このデザインが、どのような協議がなされて登場したのだろうか。
初めからこうだったのだろうか。それとも初めはヌードルカップデザインだったのが、協議の結果でこうなったのか。
今の話題の結婚式場のようなやり取りが、実は裏であったのだろうか、なかったのだろうか。

この建物の愛想のなさは、北の新港パーク側に回るとさらによくわかる。せっかくの公園側の道路からは荷捌き等の車の出入り口であって、公園とはつながっていない。わずかに屋上テラスからこちら側の海を眺めるようになっている。
このことは、JICAビルもそうであり、海側の公園とは何の関係もない壁の連続で、車の出入り口があるばかり。
もっともこれは設計側に問題があるのではなく、横浜市の示す土地利用規制が、車の出入りをこの公園側にするように定めているからである。
これは土地利用規制策が間違っている。このブロックは新港パークとつながって利用するようにし、車の出入りは、臨港幹線にそのためのレーンを設けるべきであった。こうすればこのブロックの施設群は、新港パークと一体になって楽しいだろう。

9●万葉倶楽部はどう見ても共同住宅つき事務所
ところがである。カップヌードルミュージアムの道を挟んで西隣の「万葉倶楽部」なるお風呂付宿泊施設は、海側に道はないから新港パークと敷地はつながっている。しかるに、施設側から積極的に公園側に顔を出している様子はない。ほとんど閉じている。
入場料金を取る施設なので、オープンにできないのだろうか。それにしてももったいない。

で、この万葉倶楽部の建築デザインであるが、とてもそのようなレジャー施設とは見えない姿である。どう見てもオフィスと共同住宅のビルである。倉庫には見えないが、ここには赤レンガイメージさえも見えない。
突飛ではないが、面白くもなく、上手でもない。

10●ひとり気を吐く異形のコスモワールド
万葉倶楽部の臨港幹線道路を隔てた向いが、遊園地の「コスモワールド」である。この大観覧車がどうやら目玉施設らしい。
いろいろな人にみなとみらい21地区の印象を聞くと、「ああ、あの大観覧車がある」と、これが大きな役割を果たしていることがわかる。観覧車の下にはジェットコースターなど定番の遊園地施設がひしめいていて、ワーキャーゴーッとかまびすしい。
この遊園地は運河の対岸の、日本丸パークにも及んでいる。

ところで、この遊園地は横浜市の都市景観計画ではどのような位置づけになっているのだろうか。ほかの施設と比べてあまりにも異色で、比べようがない。
つまり、景観としてはかなり異様なものを持ち込んでいることになる。異様なものが一概に悪いというのではない。ランドマークとしてのそのエリアを象徴する景観としての位置づけもあるだろう。
その意味では、一般の人々が観覧車コスモクロックに、港みらい21地区の象徴性を与えていることから、明確な位置づけにあるといってよいだろう。

問題は、これを景観計画として位置付けて誘導したのだろうか、ということである。
今回のアニヴェルセル結婚式場計画が、そのテーマパーク的異形をもって審議会から否決されたとすれば、このコスモクロックのふもとにそれがあることで、異形同士の取り合いの妙が生まれたことをどう見ればよいのか。
計画的に誘導したのであれば、新たな延長としての異形を排除する論理が無理となる。
あるいは計画的誘導ではなくて、何かの手違いで登場したのなら、それを排除することをなぜしなかったのか、それを排除しないでこの結婚式場計画を排除するのはなぜか、ということになる。
アニヴェルセル結婚式場計画は、巧妙にもコスモクロックを人質にとったのである。
遊園地も結婚式場も楽しい施設であって、それらを新港地区から排除する論理は考えにくいだろう。特にコスモクロックはいつの間にかシンボル的な位置を獲得してしまったのだから。
この騒ぎの根本は何かがおかしいように思うのだ。

12●新港地区の島全体を眺めて考える
ここまで、新港地区の建物などをいろいろ見てきたが、全体としてわかったことは、建築が敷地の中で完結していて、外部との連携がほとんどないのである。唯一の例外がホテルナビオス横浜である。
それはみなとみらい21地区の中央地区の開発が、モールや公開空地をつなげて敷地間の連携をしていることと比べて、対照的である。

都市デザインとは、個々の建築の姿かたちをどうこうすることも重要だが、それらが街並みとして連携するときに、景観という言葉として登場させる技である。
新港地区では、ひとつひとつの建築もどうかと思うデザインであり、それらが連携することもない。都市デザインというものがあるのだろうか。

水辺に公園を作れば都市デザインだ、というのではあるまい。
赤レンガ倉庫を保全したから歴史景観だというのでもあるまい。汽車道が運河パークで消えるのは、歴史のデザインとは言えまい。
導入機能も含めて、この島全体を見通すマスタープランの視点が欠けているような気がする。あるのかもしれないが、もう古くなっているのか。

新港地区からの帰りに万国橋を渡って、新たな好ましい街並みができていることに気が付いた。
古いUR団地の建て替えをしているのだが、隣の旧生糸検査所(現:合同庁舎)の立面に調和するようなデザインである。
それ自体が特に素晴らしいデザインではないが、街並みの形成となると、いかにも自然にできがっていて、まことに好ましい。新港地区も見習ってはどうですか。

(つづく。今回で一段落のつもりだったが、もう一度、臨港地区と審議会の制度のことを書いてひと区切りにしよう)

●参照⇒横浜港景観事件(11)
●参照⇒これまでの11編の記事一覧

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