2015/01/19

1049琉球の古典芸能の組踊をみて現代の沖縄問題をつい考えてしまった

 琉球王朝の式楽(儀式用の芸能)である組踊(くみおどり、クミゥドゥイ)を観た。
 まだ耳の中に、あの琉球王朝の音楽が、ゆる~く流れており、あでやかな舞台衣装、優雅な動きが眼に残る。

 組踊の創始者の玉城朝薫作の「女物狂」の公演が、横浜能楽堂であった。300年前に創始した朝薫は、日本の江戸幕府の式楽であった能の影響も受けているとされている。
 だが、海を通じての交流拠点の海洋王国の琉球のことだから、大陸やそのほかの民俗芸能の影響も受けていることだろう。

 この公演は、テーマが似ている組踊りと能の組み合わせという企画であった。組踊「女物狂」に対するは、能「桜川」であった。どちらも 思わぬことで子に別れて狂気となって探しにさまよった末に、偶然に出会ってハッピーエンドの物語である。
 もちろん能の桜川の方が先にあったので、女物狂がその影響を受けたのであろうが、似たような話は能にも「隅田川」「三井寺」などがあるし、世界どの地域の民話にもありそうな話である。

 「女物狂」のあらすじは、首里や那覇の町には、子どもを誘拐して山原(やんばる)や国頭(くにがみ)、中頭(なかがみ)の地域に売る人盗人がいた。舞台にはまずその人盗人が登場する。
 そこへ「亀松」が、風車で遊びながら登場、人盗人は人形を見せ歌って気をひきつつ、鎌でおどしてさらっていく。
 途中、共に寺に泊めてもらうが、人盗人が寝入ったすきにに、亀松は住職に助けを求める。住職と小僧たちは工夫して人盗人を追い払って、亀松を救う。
 一方、亀松の母は狂気となって子を探す旅に出る。狂気の母に僧たちが出合い、事情を聴いて亀松の母と分り、引き合わせて親子は感激の対面をして二人で戻っていく。

 それだけのことなのだが、芸能としての見せどころ聴きどころはそれなりにある。
 組踊りと能の比較は面白いが、それは好事家や専門家に任せることにして、この「女物狂」を観て、わたしが妙に気を回したのは、琉球、つまり今の沖縄だが、この「女物狂」を米軍基地問題になぞらえてしまったことだ。

 人さらいにさらわれた亀松こそ、沖縄のアメリカ軍基地である。
 まずは人盗人はU.S.A.だったが、次の寺の僧侶がJAPANに対応するのだろう。亀松基地は僧侶の元にあって、いまだに母の元には戻そうとしていない。
 沖縄は狂気の母となって、先だっての知事選挙でも衆議院選挙でも、亀松を求める心一筋の放浪芸を、見事に演じたのであった。
 だが、現代の母と亀松を隔てるJAPANは、なかなかに手ごわいらしい。組踊の母と子のようなハッピーエンドがあるのだろうか。

 舞台に戻るが、ちょっと困ったのは、琉球語がさっぱりわからないことだ。「女物狂」のストーリーは簡単なものだから、言葉はわからなくても劇の展開は分かるのだが、つい、分らないことにいらいらする心が邪魔であった。
 琉球語もそうだが、能狂言の言葉も、今ではよく分らない。国立能楽堂は、各席にモニター画面があって現代語訳が出てくるし、以前に国立劇場で「執心鐘入」を観たときは、舞台左右に電光掲示板の文字が出ていた。横浜能楽堂も今にそのようなものがつくときがくるだろう。
 沖縄でも、多分、もうこれが分る人はほとんどいないだろう。この次からは、配布資料に配役や解説とともに、現代日本語訳の台本を付けてほしい。

 能「桜川」をはじめて観た。母の苦境を救うために、自ら身を売った子を探し求めて狂いさまよう母親と、その子の偶然の出会いというハッピーエンドの物語は、女物狂いと大差はない。
 見せどころ聴きどころは、桜川のほとりの満開の桜のもとでの、美しい詞章の謡と優雅な舞である。
 「桜川」のシテ大槻文蔵、地謡の梅若玄祥の組み合わせといい、「女物狂」の宮城能鳳と歌三線の西江喜春の組み合わせといい、まことに心豊かな午後であった。

2015年1月17日 横浜能楽堂・伝統組踊保存会提携公演
能の五番 朝薫の五番 第1回「桜川」と「女物狂」

能「桜川」(観世流)
シテ(桜子の母):大槻 文藏
子方(桜子):松山 絢美
ワキ(磯部寺住僧):福王 茂十郎
ワキツレ(茶屋):福王 知登
ワキツレ(人商人):中村 宜成
ワキツレ(従僧):村瀨 慧
ワキツレ(従僧):矢野 昌平
笛:一噌 仙幸
小鼓:曽和 正博
大鼓:柿原 崇志
後見:赤松 禎友  武富 康之
地謡:梅若 玄祥  梅若 紀彰  山崎 正道  小田切 康陽  
    角当 直隆  松山 隆之  川口 晃平    土田 英貴


組踊「女物狂」
人盗人:嘉手苅 林一
亀松:古堅 聖尚
母:宮城 能鳳
座主:眞境名 正憲
小僧1:石川 直也
小僧2:新垣 悟
童子1:古堅 聖也
童子2:宮城 隆海
童子3:大城 千那
歌三線:西江 喜春  照喜名 進  仲嶺 伸吾
箏:宮城 秀子
笛:大湾 清之
胡弓:銘苅 春政
太鼓:宇座 嘉憲

●関連ページ
434横浜で琉球のゆったりとした時間
http://datey.blogspot.jp/2011/06/434.html

860国立能楽堂で能「盛久」(シテ野村四郎)の英語字幕を見てお経の意味がわかった
http://datey.blogspot.jp/2013/11/860.html

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