熊五郎：寒くなってきましたねえ、ご隠居。
ご隠居：おや熊さん、いらっしゃい、気候も寒いけど、人の心も寒くなってきたね。
熊：おや、なにかありましたか。
隠：ほれ、このニュース、東京の豊洲新市場騒ぎで、犯人をムリヤリつくったみたいだよ、こころが寒くなるなあ。
熊：ああ、マスコミが騒ぐ犯人探しゴッコに乗っかって、新知事の大手柄にしようってんですかね。
隠：要するに、いったん決めた盛土を地下空間に変更したときに、お役所流の手続きを経ていなかったのがけしからん、その手続き違反をしたやつが犯人だ、ってことらしいね。
熊：市場整備部という担当部で盛土を地下空間に変更して、それより上のエライ人や議会に変更承認をえていなかったって、いかにもお役所らしい犯人探しですねえ。
隠：ってことは、その変更した結果が、盛土よりも悪いからなのだろうねえ。だからマスコミやら識者やら移転反対派の人たちが怒ってるんだろうね。
●盛土が地下空間になるって悪いことかしら？
熊：ところが、それが分らないですね、ニュースを読んできてなんとなくわかるのは、盛土よりも地下空間の方がコストもかからず、盛土と同じ効果があるらしいですよ。
隠：そうそう、地下空間は配管スペースになり、しかもそこで汚染土壌のその後の影響の環境モニタリングもできるってことらしいから、むしろ良いことのようだね。
熊：とすると、たぶん、犯人とされた連中は、心の中じゃあ大いに不満でしょうね。
隠：むしろ良いことしたのに、なんで叩かれるんだよ、新知事の人気取りの犠牲にされたよ、なんてね。
熊：まあ、地下には盛土してないのに、盛土してるって議会答弁したらしいですから、そこはドジだった罪はありますがね。
隠：答弁するほうもする方だけど、都議会の方もそれを聞いて、はいそうですかって、何の疑いも持たなかったのが不思議だね。だって、工事現場を見れば小学生でもわかるウソだよ。
●サボった専門家委員と都議も犯人でしょ？
熊：そうですよね、現場になる前に設計図で一目瞭然で盛土がないってわかりますよ。答弁するほうもされた都議会議員の方も、全然見なかったのですかねえ。無責任都議会だ。
隠：もうひとつ分らないのは、盛土をせよと決めた専門家の委員会があるよね。その委員連中も設計図もみなけりゃ、現場も見なかったのかねえ。
熊：そのとおりなら、言いっぱなしの無責任委員会だ。
隠：だったら、担当当局の役人だけを犯人としないで、手続き違反に気が付かなかった、無作為の都議会議員も専門家会議の委員も、犯人として処罰するべきだな。
●いちばんよく事情を知る設計者の責任は？
熊：こういうときに設計した建築設計事務所やその担当者はどうなるのでしょうかねえ。たぶん、前後事情をいちばんよく知っていたはずですよ。
隠：あ、この盛土省略地下空間案を東京都に提案して、設計を受注したのは日建設計だね。でも、その提案採用の決定権は東京都側にあるから、一義的な責任は無いだろうね。
熊：でもね、前提敷地全部盛土と決まっているのに、建築地下には盛土しないって提案は、そもそも違反提案のような気もしますが、どうですか？
隠：う～む、違反でもそれを採用した東京都側に責任があるけど、分っていながら違反提案した技術者の倫理は問われるかもしれないね。
熊：でも、違反提案でも、そのほうが技術的にも社会的にも正しいと信じての提案であり、それが真実ならば、むしろ技術者倫理としては望ましい方向のような気がします。
隠：う～む、そもそも盛土するってことが正しい技術的解決であったかどうかが問われるってことだな、こりゃたいへんだ。
●結局はできてしまった現実がものをいう？
熊：こういう時には結局は、現実に即して解決するしかないんでしょうね。
隠：つまり、できちまった建物が安全であることを検証して、改善するべきところは改善して、早期に供用開始するってことだな。
熊：そうですよ、とりあえず犯人に仕立てた役人を型式的に罰して、マスコミと新知事の顔を立てて幕を引くんでしょうね。
隠：あとは技術問題に絞り込めば、マスコミや世間はもう興味が薄れて、次のオリンピック問題のほうが面白いや、ってことでだな。
熊：この間に、だれか悪意を持ってやったものがいるんですかねえ。
隠：なんだかもう、心が寒い時代になったね。
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