2016/03/25

1182【大原美術館コレクション展】六本木で懐かしの泰西名画鑑賞センチメンタルジャーニーの眼福

●少年期の思い出の懐かしい名画に出会う
 
 昔懐かしい絵画にたくさん出会った。絵を懐かしいという気分で見るのも、けっこう楽しいものだ。
 春の気配が濃くなってきてもまだ寒いけれど、ちょっと花見気分も起きてきて東京六本木に、国立新美術館で開催中の大原美術館コレクションの出開帳を観に行ってきた。
国立新美術館(設計:黒川紀章)
ボテ腹デザインを見上げる
ちょん切られた旧東大生研校舎

 大原美術館は倉敷にあるのだが、わたしの故郷の高梁盆地から近いので、少年時から何度か行ったことがある。長じて、後に妻となる女性がこの美術館の近くに住んでいたので、一緒によく行った。そしてお決まりコースの喫茶店エル・グレコでお茶を飲むのであった。
大原美術館が見える倉敷の街
大原美術館のコレクションは、有名ないわゆる泰西名画が多くある。少年時に接した体験で、いくつか心に焼き付いている絵があり、それらがあるかとセンチメンタルジャーニーの気分で出かけたのだが、見事にその期待に背かなかった。
 
 おお、これこれとうなずきながら観たのであった。ここにちょっとリストアップして見よう。
ジョヴァンニ・セガンティーニ『アルプスの真昼
エル・グレコ『受胎告知
ポール・ゴーギャン『かぐわしき大地
アメデオ・モディリアーニ『ジャンヌ・エビュテルヌの肖像
フェルディナント・ホドラー 『木を伐る人
ピエール=オーギュスト・ルノワール 『泉による女
ポール・セザンヌ『水浴
ギュスターブ・モロー 『雅歌

 倉敷の大原美術館の入り口両側に建つロダンによる二つの彫刻は、少年時から目に焼き付いている。さすがにこれらは来ていなかったが、上野の西洋美術館に行けば出会うことができる。
ロダン 「洗礼者ヨハネ
ロダン 「カレーの市民―ジャン=デール

 ところが、わたしの記憶にあるのに、今回の展覧会で観ることができなかった絵画のことが気になった。ジョルジュ・ルオーとファン・ゴッホである。
 今回は来なかったのか、それともわたしの記憶が間違っているのかと、大原美術館サイトのコレクションリストのページを見た。
 ルオーはリストにあるから、これは来なかったのだろう。

●ゴッホの懐かしいあの糸杉の絵が偽物とは、、

 しかし、ゴッホ作品は大原美術館のリストに一つも載っていない。おかしいなあ。
 わたしの記憶では、よじれ立つあのゴッホ流糸杉が2本ある絵と、カフェテラスの夜景の2枚である。もちろん記憶があやふやなこともあるが、いや、たしかに観た覚えがあると、そこは貧者の百科事典をググったら、いくつかの情報が出てきた。

 糸杉の絵の名は『アルピーユへの道』とわかったが、なんとまあ、驚いたことに、これは贋作との鑑定が出たのだそうだ。だから大原のリストにのっていないのだ。
贋作とわかった『アルピーユへの道』だが
わたしには懐かしい感動のある絵だから贋作でも結構
中学生の時に、一緒に行った友人と感動して観ながら、こんな風に描いてみようかな、なんて会話した記憶があるのだから、あったことは確かだ。
 へえ、あれがまあ、偽物とはねえ、懐かしい偽物の記憶ってことになった。

 わたしには好きな絵だったが、好きな絵と偽物の絵とは、玄人にはともかく、一般普通の人が鑑賞するには、全く別のことである。真贋はどうでもよいことだ。
 それは負け惜しみの言ではなく、60年以上も前の中学生がゴッホなる画家のことを今のような世間でいう価値で知っていたはずがないから、作家の名前で絵の価値が決まるなんて、大人の世界ではなかったので、わたしたちは素直にその絵に惹かれたからだ。絵とはそういうものであるべきだろう。 

 そして、あの懐かしい糸杉の絵を、いまではもう見ることができないのかと思ったら、新館の地下に福田美蘭の作品と並べて展示してるそうだ。そのいわくはこちらをどうぞ。
 大原がこの絵を買ったのは1935年だそうだから、以来、これをゴッホの作品としてみんなが素直に興味を持って観てきたのだから、それはもうひとつの文化史である。
 偽物とわかったとしても、少年の時に惹かれた絵を見せてほしいから、隠したりしないでいるのが嬉しい。福田美蘭に感謝、こんど大原を尋ねたら新館地下の糸杉に逢いに行こう。

 もうひとつの記憶のゴッホの絵は『夜のカフェテラス』と分かったが、これは贋作事件はないらしいから、大原にあると思ったわたしの記憶違いなのだろう。
 でも、この絵をたしかに美術館で見た記憶があるのだが、どこだったのだろうか。ゴッホ展なるものを観に行った記憶はないだが、。

●懐かしい仲間たちとともに

 少年の頃の美の記憶は、意外に引きずっているものだと、われながら感心した。
 内外の焼物、彫刻、絵画と盛りだくさんの名作を見て、センチメンタルジャーニーもして、すっかり眼が満腹になり、これはまさに眼福であった。それにしても大原美術館は、現代アートのコレクションもなかなかすごいものであると知った。
 大学同期仲間6人で誘い合って行ったのだが、絵描き趣味人もいるし、甲州の鄙の地からやってきた閑人もいて、それぞれに楽しい見方をしていた。

 見終わってついでに花見をしようかと、近くの檜町公園にぶらぶら行ってみたが、東京の櫻は寒さに未だちじこまっていた。
 それでも面白いのは、その公園にはひとりの同行仲間の息子・森詩麻夫氏が片腕となっている安藤忠雄設計の美術館があるので入って観て、また別の仲間の甥である高須賀昌志氏がデザインした公園遊具を鑑賞したのであった。
 ついでに、わたしが昔に計画した六本木駅上の『アクロス六本木』ビル(設計:RIA)も眺めてきた。まだ建っていたが、中身はがらりと変わっていた。 
檜町公園の高須賀正志デザインンの遊具
檜町公園の高須賀昌志デザインの遊具
実はこの展覧会には、岡山の名士の畏友から招待入場券をいただいたので、懐かしく行ってきたのだ。彼とは故郷で共に少年時代を過ごし、一緒に大原美術館に行ったことがある。「ダッチャン(わたしの少年期のあだ名)は、もうながらく観てないだろうから、、」と、幼馴染だからこその思いやりが実に嬉しい。
 

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